2006年8月 1日

筒井康隆「ロートレック荘事件」(新潮文庫)その2

九章まで読んだが、どうやら今度はあたりを引いたっぽい。(未読の方、ネタバレ注意)
まず、八章の記述で、「牧野寛子と愛しあった」とあるので、八章の語り手は七章と同じであることがわかる。九章はやや奇妙だ。拳銃のことがさんざん話題になっているにも関わらず、本章の語り手が一言もそれについて触れないのは何故だ?ということが気になり、もう一度以前の章を読み返してみた。
拳銃については何も得られなかったが、前回開陳した、「一章の「おれ」が影武者として存在する説」の傍証になる記述を見つけた。37ページ最後の行から


「じゃあ、一緒に行こう」
わが忠実なる護衛兵がただちにそう言っておれの方で一歩近づいたが、おれは彼を押しとどめた。
「いいんだ。いいんだ。ひとりで思い出に耽りたいんだから、君はここにいてくれ」
「まあ、当然この辺のことは君の方が詳しいんだから、じゃ、ぼくはここにいよう」

なんてこった。ここは「忠実なる護衛兵」を工藤忠明として読みすごしてしまったが、こいつが例の「一章のおれ」ではないか。影武者どころか、堂々と登場しているのではないか。それにしても、周囲の人間がそれにあまりにも触れなさすぎるのはおかしい。
ここまで考えた時、電撃的にもやもやしていたものが解けた。
「おれ」は「浜口先生」とか「重樹」とか呼ばれてるが、誰も「浜口重樹」とは呼んでない。「浜口先生」が重樹であるとは限らない訳だ。浜口≠重樹だったら、すべてが解ける。六章最後の木内氏の、「典子は浜口さんが好きなようです」と、それを受けて六章の語り手が「胸が痛んだ」という描写。
そして、決定的な証拠は…49ページの、「ロートレック荘二階平面図」の各部屋に割りあてられた人名。「寛子」「典子」「工藤」などにまじって、
「浜口
重樹」
と改行入りで入っている。これは「浜口重樹」という一人の人間なんじゃなく、「浜口」「重樹」という二人の人間なんだよワトソン君。
なにがどうなっているのかを確認するため、もう一度最初から読みなおしてみる。

一章の語り手(「おれ」):浜口
二章の語り手:重樹
これは、金造が「おれ=重樹」に語りかけているから。しかし、冒頭の車での会話は、実は三人で会話がなされていたのだ。なんて巧妙な。
三章の語り手:重樹
寛子が呼びかけていることや、「おれの矮小な身体」とある点。
四章の語り手:重樹
金造が呼びかけている。つまり、拳銃の場所を知ってるのは重樹だ。
五章の語り手:重樹
典子が呼びかけている。
冒頭でこんな記述がある。「腹が減った」「ぼくもそうだよ」明らかに二人いる。
「おれたちはいつも通り、並んで腰掛けた」うーむ。
六章の語り手:?重樹?
証拠になるような描写はないが、語り手の心理からみて重樹ではないかと思われる。
七章の語り手:?浜口?
映画の話をしているので、浜口と思われる。
八章の語り手:浜口
七章と八章は同じなので。
九章の語り手:重樹
で、肝心の誰が殺したのかだが、拳銃の場所を知っているという事実からすると重樹があやしいのだろうなあ。
…ふうう。では続きを読むか。今度こそ、わが勝利を…

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